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付き添い


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朝のうちは曇天だったが
午後から陽射しが強くなってきた。




お昼から早速投薬が始まった。
点滴を刺すだけの地味な絵だが
いつも周りは不安に苛まれる。

当の本人は慣れたもので
ケロりとした顔をしているが、
さすがに今回は勝手が違うようだ。

今日は仕事を休んだ。
幸い有給休暇は売るほど余っている。


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「かなちゃん、仕事行かなくていいの?」

ベッドに横たわりながらも
こちらに顔を向けて話しかけてくる。

「ああ、今日は休みだよ」

そう言いながらわざと
美月の手を握ってゆらゆらさせる。


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少し表情が緩む。
目が優しくなり固い表情が和らいでいた。

「うん。ちょっと眠いから・・・」

と美月がボクの手を握ったまま
目を閉じた。

掛け布団の中に手を戻し、
冷えないように位置を整えて
病室の椅子に座り直した。


付き添い_b0155903_1991543.jpg


陽射しが眩しかったので
ブラインドを閉じようと
窓際に寄った。

庭の木立に止まったスズメたちが
チュンチュンと元気よくさえずっていた。


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光が眩しい。
日なたは気持ち良さそうだった。
世界は実に平和だった。
すべてが幸福に包まれているように見えた。

でも、硝子一枚隔てた
窓のこちら側は
過酷な闘いの最中だ。

このコントラストに
ボクは奇妙な違和感を覚えた。


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どうしてボクの妹だけが・・・
と思ってしまう。

今さら無意味な問いとは知りつつも
口をついて出そうになる。


付き添い_b0155903_1910961.jpg


すっかり眠りについた
美月の顔を確認して
病室の外に出る。

廊下で舞子さんと母が話していた。
こうして並ぶと本当にそっくりだ。
双子ではないが、そう言われても
疑う人は少ないかもしれない。

3人で今後を話し合った。
これからは何が起こるかわからない。
極力病院に誰かが居るようにしよう
ということになった。

昼間は舞子さん、夜はボクが付き添うことになった。
母も極力来るようにし、厳しい部分はあゆちゃんに
お願いすることにした。

幸いあゆちゃんは、今、学校が休みなので
時間が空いている。お願いすればきっと
全面的に協力してくれるだろう。


付き添い_b0155903_19103812.jpg


夕方になってから点滴が終わった。
美月はまだ眠っていた。

少しズレた布団を直す。
母が美月にぐっと顔を近づけた。
身動きせずに我が娘の顔を見ていた。
悔しそうな顔をしたあと、ボクに
その場を託して出て行った。

きっと泣いているに違いない。
舞子さんがそう言った。
ボクもたぶんそうだろうと思った。

夜になりボクだけが残った。
母と舞子さんは明日に備えて帰っていった。
付き添う方もきちんとペースを守らないと
長丁場で持たない。

付き添う方が健康を損ねてしまっては
意味がないのだ。


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ソファーの上で目を覚ますと
美月がベットの上で、うんうんと唸っていた。
顔は脂汗でびっしょりだ。

「痛いよぉ」

「どこが痛い?お腹か?」

「違う。全身が痛い」

初めての副作用だ。
直ぐにナースコールをして
看護師に来てもらう。

これまでも痛みに襲われることはあったが、
ここまで露骨に痛がることはなかった。
痛みに対する耐性は、幼い頃から相当あったからだ。

看護師さんも手に負えず、医師に緊急連絡をする。

それから30分ほど騒がしい状況が続き、
美月には別の薬が投与された。

症状がよくなったわけではない。
単に痛みが我慢できるレベルまで
下がったに過ぎなかった。

美月の目は虚ろだった。
話かけてもほとんど反応は無かった。
強い鎮痛剤に当てられて
睡魔に抵抗できていないらしかった。

初日からこの状況だ。
明日からが思いやられる。

ボクは美月の手を握ったまま
朝を迎えた。

朝食になる前に舞子さんと
バトンタッチすることができた。


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美月の痛みは相変わらずだった。
昨晩よりはマシだったが、激痛のために
何も口に入れることはできなかった。

看護師を待たずにそのまま
直ぐに意識を失って眠りについてしまった。

きっと全身で病魔と闘っているのだろう。
そうだ。これはきっと良くなる兆しだ。
そう信じ込もうとした。


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しかしこの日を境に
状況は悪くなるばかりだった。

by nanase-kana | 2013-03-16 19:17 | 回想


日々の生活(いとなみ)に情景を


by nanase-kana

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