初めての撮影
ほとんど見えないであろう眼をじーっと凝らしながら
重たいカメラを抱え、必死で操作を練習する。
「かなちゃん、あたし、今日はお薬が効いて
すごく調子がいいから、お外で写真撮りたい。」
「じゃあ、5分だけだよ。」
そう言ってボクは華奢な体の彼女を持ち上げ、
車椅子に乗せた。点滴の針が邪魔だった。
長い病院の廊下を
カラカラと乾いた音を立てて車輪が回る。
彼女は車椅子の上で、カメラを大事そうに抱えていた。
病院の庭は公園のように広い。
花壇や池、ベンチや噴水がある。
「よおし、撮るぞ~」
そう言ってはボクに花壇の前まで
車椅子を押すように言った。
じっと狙いを定めてシャッターを押す。
何枚か撮っては移動を繰り返し、
気が付いたら20分はもう越えていた。
「これ以上は体によくない。もう部屋に戻るよ。」
「えーんえーん。もっと撮る~。」
ウソ泣きをして駄々をこねる彼女を
説き伏せ、来た道を辿り病室に戻る。
部屋で重たいカメラを彼女から受け取り
撮影された写真をプレビューして驚いた。
すごく良く撮れていた。
つい1週間前に初めてカメラに触れ、
ほんの数十分の間でこんなにちゃんと撮れるとは
まったく予想していなかった。
「かなちゃん、あたしの撮った写真どお? 上手?」
不安と期待の入り混じった表情でボクを見上げる。
「正直、ここまでちゃんと撮れているとは思わなかった。
お世辞抜きですごいセンスだと思う。才能かなぁ。
これなら写真コンテストにも出せるんじゃない?」
「やったぁ!」
とびきりの笑顔。
彼女はベットの上で手を叩いて喜んでいた。
by nanase-kana
| 2008-07-08 21:44
| 回想