好物
美月の好物はフルーツ全般だ。
桃、梨、リンゴ、葡萄、
さくらんぼ、バナナ、苺・・・
果物系なら何でも好物だ。
今日は特売をしていたので、
山梨県産の桃を2つ買った。
ちょうど今頃が旬らしい。
鼻を近づけてみる。
ふわっと甘くて濃い桃の香りがする。
いい匂いだ。食べ頃だろう。
これなら美月も喜んでくれるはずだ。
病室に入ると、ちょうど点滴の時間だった。
美月はボクの顔を見るとパッと表情が明るくなった。
「かなちゃん、今日はお土産があるの?」
ニコニコしながらこちらを見る。
「じゃん! ほら、今日は桃だぞ」
美月の目が輝く。
「やったぁーー! よぉし、今日は桃祭りだね」
幸い食事制限は今はあまりない。
果物程度なら結構自由に食べられる。
ボクが桃の皮を剥く。
丸っとひとしきり剥き終わる。
美月が手を伸ばして丸ごとかじろうとするので、
ぺシっと手を軽く叩く。
「こらっ、まだ剥いてる最中。
4つに切るから待ってて」
「はぁ~い」
ニコニコしながら、
それでも残念そうな表情。
二人で桃にかぶりつく。
やさしく幻想的な桃の香りがする。
期待を裏切らない甘さとみずみずしさ。
ボクも美月もしばらく桃の美味しさに
酔っていた。
美月の満足そうな顔を見ると、
また明日は違う果物を持ってきて
あげようという気になる。
「かなちゃん、ありがとう。
桃、とっても美味しかったよ。
病気もすぐに治っちゃう気がして来たよ」
その言葉とは裏腹に、
病は確実に進行している。
体重の減少が見た目にも著しい。
ボクは美月の頭をなでると、
そっとベットに寝かせた。
by nanase-kana
| 2008-08-02 21:37
| 回想