宣告
朝一番で病院に集まる。
窓口から呼ばれて別室に向かう。
3人とも無言だった。
話すべきことはたくさんあった。
でも誰一人として、口を動かせる雰囲気ではなかった。
まるで判決前の被告人のようだった。
コンコンと
診察室の扉にノックする。
「はい、どうぞ」
扉の向こうからいつも聞く
主治医の声がした。
3人でお辞儀をして椅子に座る。
診察室に4人も居ると
さすがに少し狭く感じる。
これまでの診察結果を耳を澄ませて聞く。
「再発が見られます。以前のように
投薬治療を続けてみましょう。」
「先生、それで治る見込みはあるのでしょうか?」
いきなり核心を母が聞く。さすがだ。
ボクなら怖くて聞けない。
主治医が目を伏せ、
口をモゴモゴとさせた。
「わかりません。
ただこれが今は一番リスクが低く、
楽にすることができる方法です」
「つまり対処療法だけしかできない
ということでしょうか?」
さらに詰め寄る。
「基本的には対処療法ですが、大きく改善するケースもあります。
ただ再発ですから、どこまで有効かは断言できないのです。」
「先生は以前、もう再発はないといいましたよね?
あの話は嘘だったんですか!」
母が一気にまくし立てた。
冷静沈着な母がここまで感情的になる姿を
ボクは見たことがない。
先生に今にも殴りかかりそうな母を
舞子さんが静止した。
母の目に涙が浮かんでいた。
そうか、この人はそれほどまでに
愛情深い人だったんだ。
ただ娘に対してそれを上手く
表現できない不器用な人なのだ。
ボクはまるで他人事のように
頭の中で反芻していた。
「有効な薬は全部試しました。
残念ですが今認可されているものでは
対処療法しかないのです。」
この後も、何度か同じような問答が繰り返されが、
的を得ない後味の悪さが残るだけだった。
結論は
強い薬を以前より多く処方し、
さらに様子を見るというものでしかなかった。
強い薬は当然副作用も大きい。
副作用が大きすぎて体に合わない場合は
投薬する薬がさらに限られ、
病魔の進行を食い止めることすら
難しくなるそうだ。
そして、その強い薬は今日から
処方されるとのこと。
いきなり副作用との戦闘開始となる。
副作用の症状を聞くと
つらい話が多い。
副作用の方が
もはや「病そのもの」なんじゃないかと
思ったくらいだ。
3人で美月の病室へ向かう。
「お母さん、舞子さん、かなちゃん・・・
勢ぞろいしてどうしたの?」
突然大勢が現れたので美月が
目を大きくして驚いていた。
「今日はたまたま皆揃ったんだよ」
不自然さを出さないよう
いつのも雰囲気で話しかけた。
すると母がベッドに近づき
上半身を起こしている美月を
グッと抱き寄せた。
「ごめんなさい、私は本当に母親失格ね」
美月も何が起きたのか分からず
きょとんした表情でいた。
母は泣いていた。
それに美月も直ぐに気がついた。
「お母さん、あたし大丈夫だよ。
また頑張って治すから。」
舞子さんも駆け寄って
一緒に美月を抱かかえた。
育ての親の舞子さん。
産みの親の母。
2人の親に同時に
愛されている瞬間かもしれない。
ボクはそっと部屋の片隅から見守っていた。
願わくば、この幸せな時間がずっと続きますように。
そう祈りつつ、ドアを開けて廊下に出た。
ドアを閉めると同時に
目頭に熱いものが湧き出てきた。
頬を伝ってスウっと涙が落ちてゆく。
きっとひどい顔をしているに違いない。
格好悪い顔をしているに違いない。
それでも構わず泪を流し続けた。
いよいよ闘いが始まる。
過酷な闘いになる。
覚悟が必要だ。
by nanase-kana
| 2013-03-10 16:35
| 回想