山の暮れに(5)
病院へ美月を担ぎ込んだ。
ベットに横になり点滴を処方してもらう。
容態は直ぐに安定した。
「よかった。」
ボクは美月の小さく細い手を握り呟いた。
長距離移動で体力を消耗したため、
熱が出てしまったようだ。
無理をさせてしまった。
きっと母に大目玉を喰らうだろう。
横になっている美月の黒い髪を整え、
ベットを離れようとすると
ボクのシャツの袖が弱々しく引っ張られた。
「かなちゃん、ゴメンね。」
円らな黒い瞳から大粒の涙がホロホロと
こぼれていた。
不安げな顔で眉間に思い切り皺を寄せていた。
美月が昔から一番困った時にみせる表情だ。
「あたしが無理言ったから。かなちゃん、許して。
お願いだからまた一緒に遊びに行ってね。」
美月はボクがもう一緒に出掛けてくれないと
思ったのだろう。
ボクは手をギュっと握って言った。
「馬鹿だなぁ、
お兄ちゃんが美月とお出かけしない訳ないじゃないか。
今は何も考えず、ゆっくり眠ろうね。
また体が良くなったら、たくさん写真撮りに行こうな。」
美月の涙がますます激しくこぼれ落ちる。
「うん。かなちゃん、あたしを見捨てないでね。
寂しいよぉ。」
体調が悪化して、かなり気弱になっているようだ。
「美月こそ俺に見切りをつけて
お兄ちゃんはもう要らない、なんて言うなよ。」
泣きながら、いつもの笑顔。
頭をなでて、髪をくしゃっとすると
落ち着いてくれた。
明日は仕事で朝が早いが、
今夜はずっと美月の傍にいてやろうと思った。
by nanase-kana
| 2008-07-16 20:30
| 回想